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そう提案したことにスフェンは笑顔で頷き、二人で張り切って船を探索した。最初に連れ回されたときは周りを見る余裕もなかったけど、改めて見てみると、長期的な滞在になっても快適に過ごせるよう様々な工夫がされている。バスルームやトイレは狭くてもすごく立派で、この船はドームと同じように、ここだけでひとつの完結した世界のようだった。
「この船を造らせた奴はどこかの星に移住するんじゃなくて、死ぬまでずっと、ここで生活するつもりだったのかもしれないな」
「でも、それだけで『希望』なんて名前付けたりするかな。だったら『家』とか『町』とかでもよさそうな気がするよ」
「そんな名前じゃ格好悪いからじゃないか」
二階層をくまなく周り、三階層に降りる頃には、探索を初めて一週間が経っていた。一階層や二階層に比べ、遥かに複雑で迷路のような三階層へ降りようとする俺たちに、大人たちは勝手をしないよう厳しく言い聞かせた。
「三階層には船の動力があるし、まだまだ未知の領域なんだ。私たちでさえ迷いそうになることがあるから、本当は行かせたくないんだが……」
するとスフェンの顔からみるみる表情が失われていくことに、俺も大人も気がついた。スフェンの端整な顔から表情が消えると、怒った顔よりよっぽど怖い。大人は諦めたようにため息をついて「くれぐれも迷子にならないように気をつけてくれ」と言い、発信機を埋め込んだ、位置確認ができるレシーバーつきのペンライトを俺とスフェンに押しつけた。
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