Episode.5 暁

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初めて二人だけで降りる三階層は、大人に連れて来られたときよりずっと複雑に感じられる。巨大な氷の柱のように見える動力がずらりと並び、人が頻繁に通ることを考えられていないのか、通路も狭く薄暗い。 「見たことのない機械ばっかりだな。探索する余地もないか」 「うーん、でも、せっかくだから保管庫のほうまで行ってみようよ」 動力はスリープ状態で静かだった。これが稼働したらどんな音を立てるのか想像しながら、ひんやりとした動力庫を速足ですり抜けていく。前を歩くスフェンの足取りは迷いなく、遺跡の扉を開けてからというもの、スフェンは随分逞しくなった気がして、それが少し寂しく感じるのはどうしてだろう。 「ほら、保管庫だよ」 スフェンはすっかり慣れた様子で扉の横にある鏡へ右手を翳した。音も立てずに扉が開くと、内部の明かりが自動的に点く。膨大な数のコンテナが並ぶその奥には、家畜を飼育するスペースと植物を育てる人工畑があるはずだ。 「この広さじゃ、ドームにいる家畜全部は無理だよな」 「牛と鶏だけかなあ。ミルクと卵は必要だよ」 「その割に人工畑は広いから、野菜が主食か。よかったな、スフェン」 「うん…それより、見て」 スフェンは整然と並ぶコンテナのひとつにぱっと飛びついて蓋を開けた。コンテナに隙間なくぎっしりと詰められていたのは、掌に乗るくらいの大きさの、アルミフィルムで真空パックされたものだった。
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