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度重なる環境の変動に耐えて生き残った人間は、人種を問わず、肩を寄せ合って暮らしている。子供は12歳までに教育を終えると、ドームでの生活を維持するための様々な仕事を補助して回り、それはワークカリキュラムと呼ばれている。18歳になると成人とみなされ、それまでの経験をもとに、それぞれの適性に合った専任の仕事を自動的に割り振られる。
植物も家畜も自分たちの栄養を補うためだけの必要最低限しか育てられず、限られた食物は均一に分配するためすべて加工され、年齢、性別によって公平に配られることになっている。飢えることはないが、満たされることもない。最も俺たちは、「満たされた」感覚がどういうものか知らないけど。
一日で一番混雑する夜のカフェテリアで、カウンターのタッチパネルに10894と入力する。続けてスフェンも10895と入力すると、人参とほうれん草のビスケットキューブにコンポーク、栄養ゼリーの入ったチューブパックを乗せたトレイが二つ、ベルトコンベアから流れてきた。
「暁、コンポークとキューブ交換しない?お肉好きでしょ」
「あのな、これはちゃんと公平に栄養が採れるようにしてあるんだ」
「じゃあキューブはいらないよ。コンポークだけあげる」
「だから、それがダメなんだって。こないだ昼飯のときにお前のコンポーク食べたら、夕飯前にへとへとになってたじゃないか。お前が動けなくなってできなかった清掃のカリキュラム、俺が代わりにやったの覚えてるだろ。船に乗ったら、それこそ食い物の好き嫌いなんて言ってられないんだからな」
スフェンはみるみる悲しそうな顔をした。どうしてスフェンがコンポークを嫌いなのかは知っている。スフェンは以前、物珍しさから家畜として育てている豚小屋に足しげく通っていたことがある。その成長を見守るうち、愛着が湧いてしまったのだろう。コンポークが彼らだと理解した途端、スフェンは顔を青くして口元を押さえ、トイレに駆け込んだ。
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