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最初に人口が大きく減ったのは、伝染病のせいだった。これほど神経質に管理された世界でさえ、新たな脅威は生まれるのだ。ワクチンが完成する頃、人口はおよそ半分に減っていたというから恐ろしい。
未知の病原菌と人口の減少は、のちの出生率にも大きく影響を及ぼした。長く不自然な環境で過ごしていることも、自然な出生の困難に繋がった。男女が普通に愛し合っても、命が誕生する確率は極めて低い。
子供が減ることは人類が途絶えることに直結する。それだけは阻止しなければならないと、あるときを境に命の多くは試験管のなかで生まれるようになった。こうなることを予想して、多くの卵子と精子は凍結してあったのだ。
ランダムに受精させた細胞のうち、そう手を掛けずとも形になった命だけが生き残る。俺もスフェンもそうして生まれた。生まれてしばらくは名前がなく、代わりに死ぬまで使う番号が振られる。稀に人間から誕生した子供もすぐに取り上げられて、試験管の子供と同じように扱われる。公平を期し、誰かの子供ではなく、皆の子供として育てるためだ。
だから人間から生まれた子供だったとしても、本人は親を知らない。一方、親のほうは見た目などから自分の子供がわかってしまっても、公表することを許されていない。かつてその掟を破った親は、自身には罪のない子供ともどもドームから追放されたのだと聞いた。
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