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夕食の後は順番にシャワーを浴びる。水は貴重で、極限まで繰り返し浄化して使用する。それでも度々不足して、たまの雨を願ってセコイアの木に祈る。二段ベッドしか置けない家畜小屋より狭い部屋に戻る前に、セコイアに祈るのが子供に課せられた習慣だった。
ドームの中央にあるセコイアはここで最も大きな植物で、皆はそれを神様と呼んでいる。千年以上前にはたくさんの国があり、その国ごとに神様がいたらしい。でもこの小さなドームに全部の神様を入れてしまったら、それぞれの神を信仰する人間のほうで諍いが起きてしまう。だからセコイアが神様の代わり。セコイアの木は一本だけど、皆はそこにいろんな神様の姿を見ていたのだと、大昔の神話を読み漁っているらしいスフェンが話していた。
ここまで人工物に頼っておきながら、何を今さら神に祈るのかと言う人もいる。実は俺も、そう思う人間のひとり。皆が揃って胸の前で手を合わせ、目を閉じている様を薄目で見ていると、とても滑稽に思えてくる。こんなことをしても、都合よく雨なんか降らないのに。
前にそれを、こっそりスフェンに話したことがある。眠りにつく前、皆の様子を思い出すととても可笑しくなって、下のベッドにいるスフェンに語りかけた。スフェンは祈りの時間に何を考えてるんだ?神様なんていないと思わないか?皆が一斉に祈ってる姿って、何だか笑えるんだ。すると下からごそごそと寝返りを打つ音がした後に、ううんと唸るような声が聞こえた。
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