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「神様は、いるかいないかじゃなくて……概念」
「ガイネン?」
「いることが重要なんじゃなくて、何かあったときに必要っていうか。人間は、神様みたいな存在がいないと生きていけないんだよ。だからセコイアを神様っていうことにしたんだ」
「はあ?」
「暁は、夜中にこっそりセコイアの前で祈ってる人を見たことない?」
「そもそも夜中に行かないだろ。お前、わざわざ抜け出してそんなとこ行ってんのか?」
「ひとりで考えたいことがあるときにね。でも、僕より先にセコイアの前で祈ってる人がいることもあるよ。たまに泣いてる人もいるから、もしかしたら懺悔してるのかもしれない」
俺にはよくわからない。皆が寝静まった後、隠れるようにセコイアの前で懺悔するなんて、弱くてずるい人間がすることのように思えた。
「スフェンも何か懺悔してんの?」
「そうだなあ、たとえば、今日も暁にコンポークを食べてもらった僕をお赦しください、とか」
「お前、それは神様じゃなくて俺に謝れよ!」
勢いよく起き上がり、睨むように下のベッドを覗き込んだ俺を見て、スフェンは気まずく毛布のなかに潜り込んだ。
「だって、暁に謝っても赦してくれないじゃない。人間は神様ほど寛容じゃないから、そう簡単に赦してくれない。でも神様は、相手が誰でも赦してくれるんだよ」
「そんな簡単に赦してくれる神様に赦してもらって、何の意味がある?」
スフェンは黙ったままだった。毛布にくるまったままごそごそと寝返りを打っていたが、苦しくなったのか、ぷは、と毛布から顔を出した。
「暁には意味がないことかもしれないけど…赦されることで、生きていけるよ」
スフェンは時々、俺には理解できないことを言う。でもそれを深く追究しようとは思わなかった。スフェンと俺は違う人間で、分かり合えないのが普通だからだ。俺が黙ってベッドに戻ると、スフェンが下でぽつりと呟いた。
「たぶん、暁にはわからない。君は強いから」
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