Episode.2 スフェン

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Episode.2 スフェン

世界の果てまで続いているような白い地平線の向こうに、海というものがあるらしい。大昔に汚染された海が自然と浄化するには、まだまだ長い時間が必要なのだと教えられた。だからこのドームに住んでいる人のほとんどが、本物の海を見ることなく死んでいく。 僕の夢は、死ぬ前に一度でいいから本物の海を見ること。たまに許される夜の散歩でも、ドームから遠く離れることはできない。時間がきたら、サイレンの音が鳴りやむ前にドームまで戻らなくてはいけないからだ。 限られた時間で暁がすることは、砕いた氷を撒いたような、冷たい夜空を眺めることだけ。いつも天文室で飽きるほど眺めているのに、室内で見る空と、外で見る空は違うらしい。ずっと上を向いていて首が痛くなったりしないのかと思いながら、僕は足元の砂を掘る。 初めて夜の外に出たとき、砂の上を這い回る小さな黒い虫を見つけた。ドームは細菌やウイルスを徹底して排除するために、生物はすべて人間の管理下に置かれている。何に縛られることもなく、自由に生きている生物を見るのは初めてだった。
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