ピーマンは苦い

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 話と食事が進む中、目の前から声がかかった。自分の皿に視線を落とすと、紙製の器に残っているのは肉から零れ落ちたタレと脂身、もやしの破片、そして大量の… 「いや~、どうも昔から苦手で…。」  何が嫌いって、苦いから。世の中苦みのある野菜はごまんとあれど、大抵の野菜は大人になるにつれて舌が慣れ、食べれるようになった。でもこれだけは、どうしても食べられない。口に含むと自然と噛む意欲を削いでくる。 「俺の作ったものにケチ付けるとはいい度胸だな。」 「えっ、貴方が作ったんですか?」  怖っ、超睨んでくる。ご主人の人当たりの良さマックスな顔とは遺伝の欠片も感じない。そしてこのピーマンの製作者ときた。苦手な要素しかない。 「食え。」 「は、はい。」  確かに農家で野菜を残すだなんて非常識極まりない。でも、ピーマン一つでこの気迫を味わったのは世界中で俺しかいないだろうと思う。  肉の脂身やたれの味を纏ったピーマン。歯で噛むとまだ、しゃきっとした触感が残っている。じんわりと舌に広がる苦みに口を歪めながらも自分なりに味わい、皿の中にあったピーマンを完食した。     
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