【忘れ物】

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「きちんとお掃除をしないといけませんね」 忘れ物に気付かないなど、駄目ですね。 「ああ、カイトくん、これはお友達のですって。ないないしておこうね」 奥様が取り上げようとすると、男の子はいやいやをして両手で握り締め、その絵本をお母様に押し付けます、読んでと言っているようです。 「んもう……じゃあ、一回だけね ──トムくんは言いました。 かくれんぼをしよう! オニはぼく、みんなはかくれて! くまさんはベッドの下、ねこさんは引き出しの中、いぬさんは……ロボットのロンドはゴミ箱に。 くまさん、みぃつけた! ねこさん、みぃつけた!」 穏やかな声が聴こえてきます。男の子も膝の上で真剣にその絵本に食い入っています。 お嬢さんもその声が聴こえているのでしょう、とても静かに採寸させてくれています。 「──それから数日後の事です。 あれぇ? ロンドがいない、ぼくのロンドはどこ? たいへんだ! ぼくのロンドはゴミ箱だった、オニのぼくはみつけてあげられなかった! さあ、ほんとうのかくれんぼがはじまってしまいました。 みんなでぼくのロンドをさがして!!!」 「……みつかったんですか?」 「仕立屋さん、先読みは駄目ですよ」 叱られて私は肩を竦めました、確かに反則でした。
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