【忘れ物】

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「うふふ、お願いします」 お嬢さまの嬉しそうな様子に、奥様も嬉しくなったようです。 「初めは、たった一度の事にお金をかけて、なんて思ったけど」 奥様は溜息交じりにおっしゃいます。 「きっと素敵な思い出になるわね。私のウェディングドレスのままじゃ箪笥の肥やしのままだったけど、小さいドレスなら飾っても可愛くなりそう」 「そうですね、丁寧に作業させていただきますね」 それからデザイン画を描きました。 お嬢さまと奥様の意見を聞きながら(なにせ、私はシンデレラのドレスを知りませんので)、ネットで画像も見せていただき、なるほどなるほどと感心しながらその絵を完成させました。 「さて。ではお嬢さまの体のサイズを測らせていただきます」 「さいずぅ?」 「てぃーちゃんにぴったりのお洋服を作ってくれるのよ」 「ふうん」 それから少しの間は、私とお嬢さまの時間です。 裄や丈を測っていますと、「あら」と奥様の声がしました。 「絵本がありますけど。忘れ物かしら?」 奥様は奥にあるソファーに腰掛けておいでです、お膝にはもうひとりのお子さんが座っています。 その子の手に、小さなサイズの絵本が握られていました。 「そうかもしれません、うちに絵本のご用意は……」 先程のお客さまの忘れ物でしょうか。赤ちゃんを連れていましたから。     
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