花霞む梵(2)

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花霞む梵(2)

走り行く河沿いの道、その路傍に目をやれば、 天国花の点々と咲きてあり。 赤、白、斑。 ああ、美しきかな、その姿。 年に二度咲く天国の大輪の花よ。 霞む梵なれど、我心模様なれど、 それにかわりて、時節違えず咲き映える、この花のいじらしさ! かつて天より勇みて降り来たりけむ我ら万人の、そのそれぞれの降臨の決意を姿に映し、「忘れぬ!」の意地をば甲斐なき我らに示すがごとし。 この花の前、おのれ恥ずかしからずや?!… いつまでむすぼれ、霞み続ける我心の陽。もはや許されまじ。 彼の西条八十、その詩にて申されまく。 荒野に立ちたる壜の水、残り少なし。軽ろけくば、 あす風に倒れなむとぞ。 父倒れ、母倒れ、兄、姉が行き…さば天の水の、しこうして光の器たる人の本懐を為すはうぬ、もはやおのれのみならずや?!最後に託さざれし者にあらずや?! 荒野行く人あらば飲ませまほしきよ、この水。君が渇きをば潤したまえ。君、この水飲みたまえ。 馬酔木の香の惑いを晴らし、霞に見えぬ梵を見さするはひとえにこれ、器の器たるを知り、その用をなさんことなりと…いま知りたるを。 あなや、されどもはや荒野に人来ず、もはや人居らず… 溜め置きしせめてものこの水、空しく霞と消ゆるか。 せめて、我悔悟遅れしにより、人も挑み来たなくなりぬこの荒野中、いまだ立ちゐたる器と知れるばかりを慰みに、悔恨の涙なり滴り落とし、 彼の花のごとく、 幻の小花の糧ともなりてしが… 。image=512746492.jpg
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