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自由の子(2)
思ったことをそのままに、
なんの衒いも打算もなく、口にできるこの子は、
まるで青空を行く自由な雲、
大海原を行く真っ白な帆船のようだ。
俺は一瞬、はたしてどちらが健常者なのか本気でわからなくなった。世間や、金や、しがらみや、いわばどうでもいいものに振りまわされ、人を選り分け、色メガネで見る俺は、はたしてまともなのか?
この子に会ったとき人はきっと驚くだろう。
この子は自分を馬鹿と云い、なにもできない施設の子、生かされるがままの自分でしかないと、心のどこかできっと知っている。そしておそらくそれで満足している。
みずからを知る鏡というのではない。
その無原罪の波動と接したとき我々は、
自分の中で忘れていたなにかを見、
そしてそれに触れるのだ…
帰りの車中で俺はあの子に侘びた。
『ごめんね、お嬢ちゃん、君に応えられなくて。素直になれなくて。でもいつかきっと、君と同じような自由な心になって、あの船に乗るから…君といっしょにマリアナ諸島に、きっと行くから…』
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