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夜のタブロー(1)
「夜のタブロー」
詠むべしや、否、かなうなら
絵に託してんや、この怪しなる…
幾時とも知れぬ夜のこと、図書館の前、
その一隅を照らす街灯のあり。
霧まごう小雨に木立ちの影あやしく揺れて、
明かり落とせし館内と、前なる歩道に人はなし。
我目フィクスせしこの景を、一枚の絵とぞ、
見るはいかなる我カルマならん。
是非もなく、いとしきはこの絵。
時の止まりたる、夜のタブローなりき。
この絵中、唐突に入り来たれるものあり。
そは闇に浮かぶ白き花、
制服身につけし、ひとりの女子高生とぞ。
何者かに追われるごとく怯えつつ、しかし声はなく、館前に施錠せし自転車の鍵をもどかしげに解かんとすめり。
この乙女のいずくより出で来たれるや?
閉館したる図書館の中、はたまたフィクスの外、異次元の闇の淵より出で来しものか。
その乙女の姿街灯に照らされて館に映え、
シルエットの大きく怪しく踊る。
折しもよ、
これに迫り来る今一つのおぞしき影あり。
両手を前に翳しつつ、
左下方より絵中に入り来んとす。
「求むるは闇の中の光…苦き世の甘美なる実…あまつ乙女たるこの少女なり…我に遠ざけられし禁断の実、麗しの花…遠くな行きそ、我を忌むなかれ…かつてエルデンの園にて彼の実をば、共に食みては追われしを…いま汝がその禁断の実となりはてて我を厭うは何ごとぞ…世の奢侈に溺れ、女王の蔀に寝るが本望か…我をバリアとし、バルバロイとし、世の的とに晒しては闇の淵に葬りさるが本望か…おのれ、さらば闇の淵よりかく現れ来、汝を道連れに沈み行くまで…おおおおお、あああああ。乙女よ、乙女、逃すものかは!」
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