トラウマなんかじゃない

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10分ほど走った住宅街の一角に、七重のオススメのお店はあった。 古民家のような落ち着いた佇まいに、濃紺の暖簾がかかっている。 『bar 味供-mitomo-』 「へぇー、和食やさんみたいな感じなのにバーなんだ!わりと近いのに知らなかった……」 「そうそう、常連のお客さんに教えてもらってさ。お酒の種類が豊富で、料理も凝ってて美味しいんだよ!それに、店長が――」 「いらっしゃいませ。あれっ七重ちゃん、お友達連れてきてくれたんだ!」 会話しながらドアを開けると、カウンターから男の人が顔を覗かせた。 「ね、イケメンでしょ!」 「ちょっ、七重……!」 自慢気な七重と、慌てる私。そんな私達を見て、その店長さんはアハハと声を上げて笑った。 確かにイケメンだけど……! もう、七重ったら。 緩くパーマのかかった髪を後ろに括り、黒縁眼鏡の似合う30代くらいの店長さんは、名前を見供(みとも)さんというらしい。 古民家を改築したという店内は、センスの良い家具や照明で統一されていて、懐かしさと暖かみのある雰囲気。 控えめに流れるジャズが和の雰囲気と絶妙なバランスで、七重の言うとおり私の好きなテイストのお洒落なお店だった。 「わ、これ美味しい……!」 「でしょ?お酒進んじゃうよね~」 「ハハッ、そんなに喜んでもらえたら作り甲斐があるなぁ」 美味しいお酒とお料理で、仕事の疲れもあっさり吹き飛んでしまう私は、案外単純だ。
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