彼のこと、どうしようもなく

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「ま、とりあえずあそこ行っとくでしょ?」 ケーキの最後の一口を頬張った七重が、何の前触れもなく親指でカフェの窓の外を指差した。 つられて視線を向けると、七重の指の先には通りの向こうの百貨店が。 大きなショーウィンドウに、ピンクと茶色を基調とした可愛らしくも品のあるディスプレイ。 そこには、 『Marche du Chocolat マルシェ ド ショコラ “ 想いは、特別な一箱に詰めて ” 国内外から選りすぐりのショコラが集結! 1月29日~2月14日 7階催事場』の文字。 「……渡さないよ?」 「えー、だって美沙緒、毎年職場の男性陣にってチョコ買ってたじゃん。小野寺さんにだって渡してたんでしょ?」 ……そりゃ、お世話になってるからバレンタインくらいは…… でも、厨房やバンケットの男性スタッフ達と同じ、感謝を込めての義理チョコだよ。 気持ちを自覚してから渡すのは……また違うでしょ。 「どういう意味を込めて渡すかは、美沙緒次第だよ。私も自分へのご褒美チョコ買いたかったんだよね。さ、行こ行こ~!」 さっさと荷物をまとめて立ち上がる七重。 「ちょっ、待ってってば……!」 もう、強引なんだから。 だけど『七重に無理矢理付き合わされた』という大義名分を得た私は、その甘い香りに誘われるように、イベント会場の中へと足を踏み入れていた。
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