超人と呼ばれる男

1/7
前へ
/439ページ
次へ

超人と呼ばれる男

「ご成約いただき、ありがとうございます。次の打ち合わせからはチーフプランナーの原田が担当させていただきますね。こちら、結婚式当日までの流れを簡単にまとめてありますので、お二人でご覧になりながらイメージを膨らませてみてください」 ミーティングルームから出てきた一組のカップルと、この低音ボイスがバイトの若い女の子達に人気の男。 「なんだか結婚式がとっても楽しみになりました!」 「だな。小野寺さんに案内してもらってよかったよ」 腕を組み嬉しそうに話すカップルに、彼はにこやかな笑みを向ける。 「いえいえ、お二人の大切な結婚式を我々に任せていただけるなんて、とても光栄です。全スタッフでサポート致しますので、最高の一日を一緒に作り上げましょうね」 あんなことサラッと言われたら、心掴まれちゃうよなぁ……。 満足げにエントランスを後にする二人。 今月に入って、もう何組目だろう。 この人にかかると、みんな魔法のように彼の虜になってしまうのだ。 もちろん、セールススキルは半端ない。 さすがは年間成約数ナンバーワンという偉業を成し遂げただけある。 10館ある全ての系列結婚式場内で、しかも、3年連続という快挙。 あり得ない。凄すぎる。 けれど、彼の強みはそれだけじゃないのだ。 濃紺の細身のスーツを嫌味なくらいピシッと着こなし、短めの黒髪を程よくセットした清潔感と好感度狙いのヘアスタイル。 無駄に長い足が無駄に整った顔面とあいまって―― 「……おい原田。お前……それ誉めてんの?それとも喧嘩売ってんの?」 「へっ!?」 真横で噂の低音が響いて、ハッと顔を向ける。 すると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せて流し目を送ってくるその人――。 「小野寺……マネージャー」 小野寺 (たすく)。 彼は、ここ“グランマリアージュ迎賓館”の、敏腕ブライダルマネージャーだ。
/439ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10487人が本棚に入れています
本棚に追加