超人と呼ばれる男

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打ち合わせを終えてお客様と外に出る。 まだ16時半を回ったところなのに、すでに空はオレンジ色に染まり始めていた。 駐車場を後にする車にお辞儀をしてお見送りをしていると、スーツのタイトスカートの隙間からひんやりと冷たい風が入り込み、ぶるっと身震いしてしまった。 「うー、さむっ」 そろそろ暖かインナーが恋しい時期だ。 11月も中旬を過ぎ、通り沿いの街路樹や周りの景色は、本格的に冬支度を始めている。 ウチの式場でも、来週から夕方になるとイルミネーションを点灯する予定。 エントランスも披露宴会場のガーデンも、数えきれないほどの光の粒が瞬いて、毎年それを見る度に「冬がやってきたなぁ」って実感してるんだ。 私は、冬にはあまりいい思い出がない。 秋から引き続きの婚礼繁忙期に加え、クリスマスイベントの準備で連日忙しいことが、正直私にとっては有り難かった。 肩を竦め足早にエントランスへ向かっていると、従業員駐車場のほうから小野寺さんが歩いてきた。 「原田、お疲れ」 「お疲れ様です。本社会議でしたっけ?」 「そう。……あー、冷えてきたな」 コンビニ袋をぶら下げた小野寺さんも、私と同じく寒そうに大きな身体を縮めた。
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