10341人が本棚に入れています
本棚に追加
/439ページ
Touch me not -Tasuku side-
「見供……今のは、完全にコイツが悪いよなぁ?」
睡魔に負けて、こちらにもたれ掛かるようにして力尽きた原田。
その上半身をカウンターに預け直して、やたらと健やかな寝顔を横から溜め息混じりに見下ろした。
「はは、そうだな……美沙緒ちゃん、無自覚なのがね」
俺らのやり取りを端から見ていた見供は、クスクスと笑う。
ベージュのフレンチネイルが施されたやや小さめの爪が、口元のホクロに触れたとき。
俺は不意をつかれて、柄にもなく一瞬動揺してしまった。
それはただ、原田がそういうことをするとは思ってなかっただけで。
職場での原田は、いつも俺に対して明らかな一線を引いている。
多分、単純に俺のことが苦手なんだろう。
だからその線を越えない程度に、ちょっかい出したくなる。
『ぐぬぬ』と吹き出しでも出てきそうな表情が、可笑しくて。
見供には「好きな子いじめる中学生かよ」と突っ込まれたけど、コイツに対してはそういう感情じゃないんだよ。
例えるなら、"猫"みたいな奴。
そう言ったら原田には怒られそうだけど。
お互いの程よい距離感をわかってる。
向こうから踏み込んでこないから、こちらも深くは踏み込まない。
まぁ、俺は気まぐれに片足踏み込んだりもするけど……それはそれだ。
現に俺がゲイだと知っても、原田は俺が聞かれたくない態度をとったらそれ以上は触れてこなかった。
これが鳥飼とかなら、興味本位で質問攻めに合うに決まってる。
想像しただけで腹立つけど。
女でここまで素を出せる相手は、原田だけかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!