幼馴染という台風

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しばらく進んで1つの横開きの扉を鍵を使って開けると、そこは6×7mほどの音楽スタジオが広がっていた。 「どどどーん♪」 「う、お!?なんじゃここ!?いや、部屋っ!?」 目が飛び出んばかり見開く葉月を美香が楽しそうに中へ招く。中へ進むと録音スタジオと編集スタジオが半分程の割合で分けられていた。 「え、そんな金持ちだったっけ…」 「誕生日に無理言って貰いました~!!」 状況が全く呑み込めていない葉月がスタジオをゆっくり見回しているのを横目で見ながら美香が両手を挙げて嬉しそうに言った。 いや、無理言ったんかい。 「…ここを何に使うん?美香が歌うの?学校に来なくて合唱部も来ないから?」 「いや…だって、部活だけ来るってちょっとさ…。」 空中に視線を投げながら先程よりこじんまりとした美香が喋る。 そして、話を思い出したのか葉月にズイッと近づきながら右手の人差し指をピョンッと上げる。 「…って、違うよ。」 「ん?」 次に突拍子もない言葉を発する。 「葉月が歌うんだよ!」 防音の壁に吸い込まれていった美香の言葉は、葉月の鼓膜を揺らした。 「あんだって?」 「え、だからここで葉月が歌って、向こうで編集して、投稿しようぜ ってこと。」 聞いたことのない話の内容に葉月はついていけない。 「と、投稿……!?」 「そうだぞ~投稿だぞ~☆」 そんな美香を見てひらめいた。次は葉月が指をピン と上げる。 「'デオニモ' を観たんでしょ。」 ギクッ とでもいうように美香の肩が跳ね上がり、斜めを向いた目線が泳ぎ始める。 「な、なんのことやら…?」 「あーはいはい。把握把握。」 腕を組んだ葉月が頷く。それから「でも」と美香に睨みを利かせると 「私は 歌ってみた とか他の人の歌を歌うのには抵抗があるの。やるなら、唯一無二(オリジナル)のものがいいと思ってる。だから出来ない。てかやらない。」 「そ、そっか…。でも!じゃあさ!オリジナル曲があればいいってことだよね!」 「…は?」 「了解了解!次までに準備しとくね!じゃ、また明日!バイバイ!」 「あの…ちょ、………うん。バイバイ!」 後半はもう(ほとん)どやけになって吐き捨てた。 美香は昔からこんなだ。何かにハマると最後までやるまでは、ちょっとやそっとじゃ(どう)じない。 それこそ地球が半分になったり、太陽が消滅するくらいの衝撃が必要であることを誰よりも葉月が知っている。 扉の向こうで深く深くため息をついた。
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