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オルタナティブ・リスタート
幼い頃、よくケイリンが魔法の練習をする横で木刀の素振りをした。
ときどき奇声を発してケイリンを驚かせ、構築中の魔法をぶち壊したり。でも彼は怒らなかった。
――僕の集中が足りないから、魔法が崩れるんだ。もっと意識を研ぎ澄まさなきゃ。
お前は前向きだなあと呆れ半分に告げると、彼は真面目な顔で返した。
――戦場では魔物が奇声を上げるのなんて日常茶飯事でしょ? いちいち驚いて魔法を失敗する魔法使いなんて失格だよ。
オレは魔物か、とちょっとむくれてみせる。すると彼はにこりと笑った。
――イリスは魔物にはなれないよ。君はたぶん勇者になる人間だ。
――なれるかな?
――なれるよ。そして僕は魔法使いになって、君を隣で支えるよ、ずっとね。
幼い少年同士の他愛のない約束のはずだった。だが、その時の彼の表情はどこか子供離れしていて、何年経っても色褪せない記憶となった。
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