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ゴーレムが腕を振り下ろすのを器用に避けて、ギルダはその脇に斬りつけた。
鈍い金属音が響き、ゴーレムが呻き、乱暴に腕を左右に振る。身を反らしてそれを避け、再びゴーレムの腹部に剣を突き出すギルダ。
イリスは状況を忘れて熱心にギルダの姿を目で追った。
鍛えられた筋肉、大剣を振るう腕力には舌を巻くばかりだ。
――軽い剣じゃない。女性の身であれを使いこなすとは……!
イリスは聖剣ヴァルフリートの重みを知っていた。あれは剣士イリスの剣だったのだ。
ギルダはなおもゴーレムに向かっていく。だが、軽傷を与えても致命傷にはなっていない。
――血のないゴーレムに失血死はない。長引けば不利だ。
イリスは聖剣の刀身を見た。青銀の輝きは朧で、彼の知る姿とはいささが異なっている。
――本来の持ち主でないから、性能が十分に発揮できないのか……?
自分の腕を見る。白く柔らかい肌、聖剣を持ち上げることなど出来そうにない細腕。弱々しい、役に立たない手だ。内心悪態をつき、イリスは賭に出た。今はギルダに頼るしかない。
意識を集中して聖剣に訴えかける。。
――主の声を聴け、ヴァルフリート!
ギルダの手の中で、刀身に新たな光が宿るのをイリスは見た。胸に希望が兆す。ヴァルフリートは彼の声に反応している。ならば、
――イリスの言葉に従え。お前を振るう女に力を委ね、ゴーレムを斃せ!
イリスの念に呼応して、聖剣ヴァルフリートは青白く燃えた。
「なんっ……!?」
驚くギルダにイリスは呼び掛けた。
「ギルダ! ゴーレムを斬れ! 今ならいけるはずだ!」
ギルダはちらりとイリスを見た。納得した風ではなかったが、彼女は雄々しく聖剣でゴーレムの胴体を薙ぎ払った。
青い炎が夜を切り裂くようにはしり、岩塊が真っ二つに裂けた。断面にゴーレムの命を支える魔術文様が発光しながら浮かび上がる。ギルダが再び剣を振るうと文様が断ち切られ、ゴーレムが断末魔の叫びを上げた。
巨体を構成していた岩が剥がれ落ち、地面に落ちて砕けて山をつくる。
荒い息をつくギルダの背後で、イリスは地面にへたり込んだ。はっきりと思い出していた。闇焔公を斃した、あの日のことを――。
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