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<名も無き英雄の墓所>は日が落ちると深い闇に包まれ、昼間とは打って変わって不気味な雰囲気を漂わせた。
どういう仕掛けか、廃墟の石材がほのかな光を帯びているので足元には困らない。朽ちた城跡をイリスはぼんやりと歩いた。辺りは静まり返り、虫や獣の声は聞こえない。
――無理もないか。ここは死と闇の気配が充満した場所だったものな。
ふとイリスは我に返った。
――どうしてオレは<闇焔公の城>の様子を知ってるんだ?
イリスは困惑して立ち止まった。初めて見るはずの風景、それなのに妙な既視感がある。
ふいに額が熱を帯びたように痛む。呻き、よろめいたイリスの耳に懐かしい声が響く。
――奥の間に続く扉を開くには、この石像の後ろにある仕掛けを作動させる必要がある。イリス、ちょっと像を動かせるかい?
「ケイリン!?」
イリスは慌てて辺りを見渡したが、そこは相変わらず闇と静寂が満ちるばかり。
「幻聴……?」
だが闇の一角に目を凝らすと、確かに竜を模した石像が佇んでいる。風雨にさらされたせいか、石像の頭は半分崩れ落ちていた。
「像を動かして、奥の間へ……」
呟き、イリスは迷いのない足取りで歩き出す。崩れた回廊を渡り廃墟の奥深くへ進むと、果たして予想通りの場所に重厚な扉の残骸を見出した。分厚い扉は既に開かれ、広大な奥の間を晒していた。内部は暗かったが、不思議な床石がぼんやりと青白く発光していたので形は分かった。
イリスは奥の間に足を踏み入れた。瞬間。
――逃げろイリス!
ケイリンの悲鳴が脳裏を焼き、鋭い痛みにイリスは崩れ落ちた。
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