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地の底から響くような呻き声にイリスは我に返った。
かつて闇焔公が座していた玉座はいま、空っぽのまま捨て置かれている。が、その隣で何か巨大なものが動き始めていた。
人間より明らかに背が高い。極端に太く不格好な手足をぎこちなく動かしてそれは立ち上がった。そして夜気を震わす雄叫びを上げる。
「ゴーレム……」
唖然としてイリスは呟いた。魔性の生み出した岩石人形は、主の魔力を失えば土に還るはず。まだ動く個体がいるとは。
――高位魔性ともなると、十年経っても魔力の残滓があるってことか……!
無意識にイリスは腰元の剣をまさぐり、はっとした。愛剣は今、ここにはない。そもそも目を覚まして以来、見た覚えがない。
――やばい、ゴーレムを前にして丸腰はまずい……。
幸いにして相手はまだこちらの存在に気付いていないようだ。イリスは慎重に一歩、後ずさった。距離を取れば逃げ切れる可能性が高いと経験から知っている。
一歩、そしてさらに一歩を踏んだ時、足元の石がず、と音を立てて滑った。イリスもまたバランスを崩して石床に滑り落ちる。
「……っ!」
顔を上げれば、無機質に光るゴーレムの目が真正面からこちらを見ている。
一瞬の沈黙ののち、ゴーレムはイリスに向かって跳んだ。
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