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――速いっ!?
向かってくる岩塊は凝縮した闇色。凄まじい重量を感じさせる。
避けようとしたが、身体の反応が妙に重く、間一髪で直撃を避けられたのはただの幸運だった。
イリスは走り出す。背後でゴーレムもまた再び立ち上がり、外見に似合わぬ俊敏さで追いかけ
てきた。全力疾走しながら歯噛みせずにおられなかった。
――遅い!!
記憶の中の自分とあまりに速度が違うのだ。持久力も、耐久性も大幅に劣っている。
背後でゴーレムが唸りを上げる。すぐ後ろで床が砕けたのを感じた。イリスは走り続けたが、それも限界に近い。
荒く息をつきながら角を曲がる。その先は行き止まりだった。
――しまった……。
ゴーレムが姿を現す。無機質な緑ガラスの瞳がイリスを映す。恐怖と疲労を顔面に張り付けて佇んでいるのは、かつて勇者と呼ばれた剣士イリスではない。力も何も持たない、ただの小娘。
ゴーレムが腕を振りかぶるのを茫然と眺めながら、ここで死ぬのか、と思った。
思い出すのは、ケイリンのこと。
――ケイリン、いまどこにいるんだ?
地響きが、上がった。
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