オルタナティブ・リスタート

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 覚悟していた痛みは感じなかった。代わりに身体ごと引っ張られて横ざまに引き倒され、床と肌が擦れて痛んだ。  イリスは目を見開いた。いつの間にか細いロープが胴に絡みついており、これに引っ張られたらしい。  と、素早く駆け寄ってきた人物がいた。 ――ケイリン?  顔を上げ、イリスはそこにギルダの険しい顔を認めた。 「しっかりしな、イリス!」 「ギルダ!? どうして!?」 「そんなことより、ゴーレムかい、こいつ? 厄介だね、デカブツの割に敏捷そうだ」  イリスはギルダの手に縋りついた。 「ギルダ、逃げるんだ! あいつには普通の武器は通用しない! 魔力を帯びた武器でなければ、傷一つ負わないぞ!」  ギルダは奇妙に静かな表情でイリスを見据え、腰に佩いた長剣を鞘から抜き放った。途端、青銀の輝きを帯びた刀身が露になる。  ゴーレムが不審そうに唸り、イリスはぽかんと口を開く。青白い光に照らされた顔に不敵な笑みを浮かべ、ギルダは低く言った。 「魔力を帯びた武器って、こいつのことかい?」 「なんで、あんたがその剣を……ヴァルフリートを……」 「へぇ、こいつのことは分かるんだ。そう、これは聖剣ヴァルフリート。かつて闇焔公を斃した名も無き英雄が携えていたものさ」 「闇焔公を斃した……?」 「命と引き換えにあの悪魔を斃した男たちの遺産だよ!」  そしてギルダはゴーレムに向かって走り出した。
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