1 高御座の縁

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 あれは水尾の帝が退位されて、東宮が即位されるときだった。  私は恋に落ちた。あの方に。  まだ母は親王の北の方として健在で、私は親王家の大姫として外のことを何も知らずに暮らしていた。尼削ぎ髪で、永遠にこの生活が続くものだと思い込んですらいた。  残暑が厳しく、妹と弟たちと一緒に寝殿の釣殿で水に体を浸して遊んでいた頃に、帝から父宛てに勅令が降った。 「東宮の即位にあたり、廉子女王(やすこひめおう)を高御座の御簾を掲げる役に任ずる」  私には、従四位下の位が与えられた。  侍従や蔵人、そして女蔵人のような下級女官を除いて、宮中に上がって帝にお目見えできる殿上人は従四位下からである。それは女叙勲においても変わらない。  それから八条の親王邸は上へ下への大騒動になった。 「姉上も叔母君同様、女王の身で斎院になられるのですか?」  弟か妹が言ったような気がする。 「知らない」  何も知らぬ私はどこまでも他人事だった。  それよりも、水面にきらめく太陽の光の方が重要だった。  裳着も終えぬ身に従四位下とは、ということになり、私には急遽裳着が行われた。  月のものが来たのは、もっともっと先のことだ。     
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