0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
あれは水尾の帝が退位されて、東宮が即位されるときだった。
私は恋に落ちた。あの方に。
まだ母は親王の北の方として健在で、私は親王家の大姫として外のことを何も知らずに暮らしていた。尼削ぎ髪で、永遠にこの生活が続くものだと思い込んですらいた。
残暑が厳しく、妹と弟たちと一緒に寝殿の釣殿で水に体を浸して遊んでいた頃に、帝から父宛てに勅令が降った。
「東宮の即位にあたり、廉子女王を高御座の御簾を掲げる役に任ずる」
私には、従四位下の位が与えられた。
侍従や蔵人、そして女蔵人のような下級女官を除いて、宮中に上がって帝にお目見えできる殿上人は従四位下からである。それは女叙勲においても変わらない。
それから八条の親王邸は上へ下への大騒動になった。
「姉上も叔母君同様、女王の身で斎院になられるのですか?」
弟か妹が言ったような気がする。
「知らない」
何も知らぬ私はどこまでも他人事だった。
それよりも、水面にきらめく太陽の光の方が重要だった。
裳着も終えぬ身に従四位下とは、ということになり、私には急遽裳着が行われた。
月のものが来たのは、もっともっと先のことだ。
最初のコメントを投稿しよう!