日常

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桃をいつものように生活指導室へ連行する。 個室に分かれている一室に桃を入れ、反省文を書かせる。 桃が座っている向かいの椅子に保は監視のため腰かける。 (昔はこんなじゃなかったよな…) 保の知っている荒れていない桃は、中学の頃までだった。 荒れ始めたのは、高校入学してからだろうか。 社交界で聞いた噂によると、桃はオメガ判定だったらしい。 桜井家に限らず華族は代々アルファ家系が多く、オメガが生まれることはほとんどなかった。 きっと家の中での桃の居場所がなくて、誰にも頼れないのだ。 オメガというだけで社会的地位がないに等しいのに、元華族家系ということも相まって、家の中での立場的にも辛いのだろう。 しかも、桜井家は最近家業がうまくいっておらず、業績不振が続いているそうだ。 桜井家としては、桃が十六になったらすぐにでも結婚させて、相手の家から融資してもらおうと思っているらしい。 社交界では誰が桃を貰うかという話で持ち切りである。 桃は物ではない。まるで物の売買ではないか。あまりにもひどすぎる話だった。 「おい、久世。終わった」 保がボーっと昔を思い出している間に桃は反省文を書き終えていた。 「確かに書き終えているな。これが嫌なら制服くらいちゃんと着ろ」 「あたしなりにちゃんと着てるっつーの。もう教室戻る」 「おい、待て。まだ話が…」 話の途中にもかかわらず、桃は生活指導室から退室してしまった。
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