昭和二十年十一月

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昭和二十年十一月

 戦争が終わった。ついに空を飛ばないまま、信吾の戦争は終わった。  ずっと前から、飛べる状態の飛行機などなかったし、そのもっと以前から燃料も底をついていたから、飛ぶ機会などあるはずもなかった。それでも、信吾はずっと夢見ていた。それが片道ぶんの燃料のみを積んだ特攻であっても、乗る機体が桜花のようなものであっても、自分の命と存在のすべてをかけて、彼は戦いの空を飛んでみたかった。首に巻いた真っ白い絹のスカーフそのもののように、澄み切った顔をして特攻機に乗り込む若い戦士の姿が今でも目に焼きついていて、戦後と呼ばれるようになった今も、頭を離れなかった。意味もなく目的もなくただ浅ましく食べるものを奪い合うだけの暮らしを繰り返していると、自分がひどく下等な生き物になった気がして、生き延びてよかったなどとは少しも思えなかった。  今日も仕事を探すふりをして、一日廃墟をうろついて過ごした。酒が呑みたくてナンダカワカラナイものに手をだして、目が潰れた男を見た。酒に逃げることもできないなら、醒めきったこの理性を、どうやって殺せばいいのだろう。     
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