進路

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「んー、一応保育ってことになったけど学校どこにしよかな。東京は絶対よね。あとは、そういえば前に東京の保育の大学のオーキャン行ったなあ。あっこにしよか。校舎もええ感じやったし。 」 教科書をリュックにしまいながら、独り言を続ける。一応、教室に誰も居ないことを確認した上で。しかし、こういうときに限って誰かに聞かれていたりするもので。 「独り言多いなあ、千香さんは。 」 何か忘れ物を取りに来た様には思えない、野球のユニフォームをまとった男子生徒がクスクスと笑いながら教室に入って来た。 「...古谷!?そう思うんなら、聞こえんふりしてさっさと通り過ぎてや!あーあ、進路決まっとるけんってええご身分やねえ。部活参加するとか。 」 千香は急に声をかけられ一瞬びくりとするも、気を取り直し文句を垂れた。大体、野球部なんてのはクラスの中心的な女子の彼氏というのが常では無いのか。どうして地味で目立たない自分に突っかかってくるのだろう。 「俺は早いうちから頑張っとったけんよ。大学でも野球するけん、早よ決めて体鈍らせたなかったし。 」 「目標があるっていうんは凄いこっちゃねえ。 」 千香は会話もそこそこにそそくさと帰り支度を整えた。 「千香さん、結局進路どうなったん?決まったん? 」 「まあ一応ね。東京の保育の大学っていうことまでは決まった。 」 リュックを背負い、あとは帰るのみにして古谷の方を向いた。 「東京かあ。遠いね。俺大阪やけん、会えんなるわ。 」 「なんいよんよ。会う用事やか無かろがね。 」 全く。自分は古谷の暇潰しの道具じゃないしと呆れ返ると。しばらくの沈黙の後、古谷が口を開いた。 「あるよ。だって、俺千香さんのこと好きやけん。 」 「古谷。それは、いくらふざけとっても言うたらいかんことよ。ほんまに好きな子にゆうたげないかんよ。 」 千香は間髪開けず、言葉を返した。何かの罰ゲームなのだろうと信じて疑わず。 「 俺、嘘でこななこと言わん。ずっと前から、卒業するまでには言いたかったんよ。本気でいよる。千香さんがええんなら、遠距離にはなるけど付きおうて欲しい。 」
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