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その翌日。千香は強烈な眠気に耐えながら登校していた。昨晩届いたばかりの史料本を読んでいると、いつの間にやら窓から見える空が明るくなっており。
「やっぱり人間は寝な死ぬね。いちんち寝んだけで、こなにしんどくてぼーっとしてしまうんやけん。 」
欠伸を咬み殺しつつ、ふと腕時計を眺めた。そして、足を止め何かを思い出す。
「あ。そういえば昨日古谷に告白されたんやった。気まずっ。というかなんで今まで忘れとったんやろか。ありえんわ私。 」
どこか他人事の様に。眠さと気まずさでよく分からない状態のまま、千香は学校へと歩を進めた。
教室へ入ると、室長の美咲が泣いていた。黒板には千香と古谷の相合傘が大きく書かれており。にも関わらず、きょとんとした顔で何も見なかったかの様に千香は席に着いた。
「森宮さん。これどういうこと。 」
案の定。美咲の取り巻きの女子が語気を荒くし目を吊り上げ黒板を指差した。こうも興奮状態にあれば、最早何を言えども意味を成さない。そう悟った千香は、教室の後ろの方に居た古谷に目で合図した。何とかしろと。
「俺昨日、千香さんに告白した。何でバレとんかは知らん。 」
古谷は言い切った。他に何の説明も無く。途端、あちこちからひゅーひゅーと冷やかしの声が聞こえ始め。ますます美咲の涙が溢れてきた。
「美咲ちゃん。私、古谷とは何もないけん。確かに昨日告白っていうやつ?はされたけど、さらさらそんなつもりはないけん、泣かんとって。...古谷。もう美咲ちゃん泣かされんよ。大事にしたげないかんぞね。 」
まくしたてる様にそれだけ言うと、千香は黒板の相合傘を消す、いや書き直した。自分の名前が書いてあった場所に、美咲の名を。
「人には身の程ってもんがある。私と古谷は何遍地球がひっくり返ったとしても、付き合うことはないんよ。美咲ちゃんみたいな可愛い子と一緒に居るんが正解よ。...分かったんかね!? 」
背を向けたまま千香は古谷に怒鳴った。彼方此方では、※おらばんでも良かろげや、いきっとるあいつ。などと陰口が聞こえた。
「ほんなら、私今日はもう帰るわ。また明日気ぃむいたらこーわいね。 」
それに対抗すべく千香は心からの嫌味を込めた笑顔をクラスメイトに送り、そのまま教室を後にした。
翌日から、誰も千香に話しかけることは無かった。
※おらぶ・・・怒鳴る、叫ぶと同義。
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