八坂神社

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八坂神社

大学への入学も無事決まり、新居に荷物も運んでしまって千香は入学式までの数日間暇を持て余していた。家の近くを散策しても良いが、まだこちらへ来たばかりなので、いかんせんこっちの地理に疎い。となると、スマホのマップでどこか行きたいところにでも行こうか。そう思い立った千香は、浮き足立って、日野へと向かった。 「うわあ。日野じゃ!日野じゃ! 」 千香は電車を降りたときからうきうき気分だった。一応周りの目も憚りはしたが、普通に歩いているつもりが小さくスキップしてしまう。 「おおお。日野驛って書いとるんもええねえ。写真撮らな! 」 スマホを取り出し、良い写真を撮ろうと後ろへ下がったとき。丁度そこを歩いていた人にぶつかり足まで踏んでしまった。 「す、すみません!お怪我はありませんか? 」 後ろへ振り向き頭を下げつつ、恐る恐る相手の顔を見ると。思わず息を飲んだ。 「ったく、後ろくらい見てから写真を撮りやがれ。 」 男はスーツを払いながら不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。その表情、雰囲気、顔、どれをとっても千香にはあの人物にしか見えなかった。どうにか言葉を紡ごうと口をパクパクさせていると、その男は千香の顔を凝視すると途端に驚いた表情を見せ。 「ッお前!森宮か?森宮千香だな! 」 「え、ええ。そうですけど。 」 なぜこの男は自分の名前を知っているのだろう。今初めて会ったというのに、なぜ。千香は男を怪しむように見た。 「...思い出せねえか。なら仕方がない。 」 そう吐き捨てると、男は踵を返しその場を立ち去ろうとする。 「あ、あの!思い出せはしませんが、一つ思うことがあるので言うてもええですか? 」 「何だ。 」 男は足を止め、千香の方へ振り返る。 「あなた、土方歳三に似とると思います。本人か思うぐらいに。 」 すると男はにやりと笑い、スタスタと千香の方へと距離を詰めた。 「内藤、隼人だ。その名前にお前なら心当たりがあるだろう。...お前とはいずれまた会う気がする。またな。 」 内藤は千香の頭をわしゃわしゃと撫で、雑踏へと消えていった。しばらく何が起こったのか理解出来ず固まっていた千香だったが、ようやく我に帰り。 「あ、あなな美形に頭撫でられるとか、この先の人生もう無いんやなかろか。うううしかも土方歳三似やし! 」 火照ってきた頬を手で包み冷やしながら、何とか目的の八坂神社へと向かい始めた。
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