名もなき本

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“ヒカルとレイへ  遠くはなれていてあまり会えませんが、お母さんからあなたたちが本の虫だと聞きました。それを聞いて、おばあちゃんは私たちは遠くはなれていても本という宇宙でつながっているのだとうれしく思いました。  そこで小さな読書家さんたちに、おばあちゃんがひとつプレゼントをしようと思います。それがこの『名もなき白き本』です。この本のなぞを解き明かした時、あなたたちは、世界で一番の本を手にいれるでしょう”  病気が悪くなる前に書いたのだろう。所々震えていたが、大きくてはっきりとした文字。  兄弟の目は万華鏡の様に輝いた。 「世界一の本だって!」  レイが飛び跳ねる。 「どんな本だろう?きっと凄くきれいな本なんだろうな!」 「きっと、世界の秘密を解き明かすような本だ」  ヒカルも、この『名もなき白き本』を胸に抱えてバレエダンサーよろしく一回転する。 「歴史的価値の高い本かもしれないな。おばあさんは、昔の作家の初版本なんかも集めていたらしいよ」  お父さんも腕組みをして笑う。 「まあ、どんな本であれ、この本の秘密を解き明かさないとな」  ヒカルは、本をしばらくパラパラとめくり考えた。 「この本のどこかに、世界一の本のありかが隠されている場所の暗号や地図なんかが書かれているのかも)  ヒカルは目を輝かせてこの本を見つめた。  ヒカルが最近特に熱中して読んでいるのは『シャーロック・ホームズ』や『アルセーヌ・ルパン』といった探偵や怪盗が出てくるお話だ。そこには宝の地図や暗号がよく出てくるのだ。  小さな名探偵たちは、しばらく目をつぶり考えるた。すると、ヒカルが何か思いついたのか、部屋から鉛筆を持ってきた。 「この鉛筆でこすれば、文字が浮き出てこないかな?」  しかし、いくら鉛筆でこすっても、文字は浮き出てこない。 「ちがうみたいだ。じゃあ」  ヒカルはお父さんに頼み、ライターで本の1ページをあぶってもらった。 しかし、それでも何の文字も浮き出てこない。 「これもちがうみたい」  ミカンの汁で書いた文字だったら、こういったあぶり出しで文字が見えてくると本で読んだのだが。 「そういえば、あの荷物の中に、おばあちゃんの書いた日記だか本だかがあったな。それを読めば、何かわかるかもしれないよ」  お父さんは、本のぎっしり詰まった紙袋を指さした。
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