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お爺さんの故郷はアメリカである。そこまで調べに行くのは、さすがに小学生のヒカルとレイには無理だ。
もっと英語を勉強して、高校生になったらアルバイトでお金をためて、そのうちアメリカに遊びに行ってみようかな、とヒカルは思った。
「無理して今調べなくても、そのうち何かわかるかもしれないよ」
お父さんは笑う。二人が熱中している間に、いつの間にか空は茜色に包まれていた。カレーの匂いが夕方の風に乗って漂ってくる。
毎週日曜のアニメのオープニングソングが、かすかに聞こえてきた。もうそんな時間なのか。ヒカルは顔を上げた。
「ヒカル、レイ、ご飯の時間よ」
お母さんの呼ぶ声がした。
夕ご飯を食べ終わり、家族三人で仲良くお風呂に入る様子を見てほほ笑んだお母さんは、食器を洗い終えた自分の手をエプロンで拭こうとした。すると、ガサリ、と手が何かの紙に触れた。
エプロンのポケットを探ると、ヒカルとレイあての手紙がもう一枚入っていたことに気づいた。
「あらあら、一枚渡し忘れていたのね」
お母さんは渡しそびれた手紙の最後の一枚を読んでみた。
“この『名もなき白き本』には何も書かれていませんが、それはあなたたちが自分で書いて作り上げていく物語だからです。
小さい冒険家たちよ、たくさんの本と出合いなさい。たくさんの人と出会いなさい。たくさんの旅をしなさい。そうして思ったことを、この本に記録していくのです。そうすれば最後には、世界で一番の本ができあがるでしょう”
「まあ、そういうことだったのね!」
お母さんは、読み終えると、少し考えた。そして手紙をエプロンのポケットにしまった。この手紙は、当分二人には見せないつもりだ。
謎は自分で解かなくては面白くない。大丈夫。きっとあの子たちなら自分で正解にたどり着く。
そして気づくだろう。本は、目で読むものじゃない。何も書いていないけれど、そこには立派な物語がある。キラキラ光る初夏の日差しのような眩しい物語が。この真っ白なページから、二人の物語は幕を開けるのだ。
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