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「ところで、私は篠崎ケイと申します。恵と書いてケイと呼びます。あなたは?」
「片桐」
少しためらいながら答えてくれた。
「片桐しおんです。紫に苑という字です」
指で漢字を宙に書いた。
”ああ…“
“紫苑” ”しおん“
クリスタルに浮かんだ花
花言葉は「君を忘れない」
“両親の願いが込められた名前だね“
バスが来た。
「紫苑さん、先に乗ってください」
紫苑は不思議そうな顔で私を見つめる。
「大事なものを忘れてきてしまったようです。家に取りに戻ります」
「…あ、はい」
少し寂しそうにしたが、すぐ微笑むと、バスへと向かった。
ステップを登りかけて、屈託なく手を振りながら紫苑は言った。
「また明日」
私は小さく手を振って答えた。
バスが見えなくなるまで見送った。ぼやけた視界のまま。
“そうか、生まれてから23年たったんだね“
沙羅の両親を訪ねたとき、AIチップを大事に受け取りながら、母親が秘密にしていたことを教えてくれた。
ドールの沙羅は、密かに何度か実家を訪ねていた。
クローンが妹として育てられていることを知った。
名前は紫苑で、花の名前だということ。
何気なく種を選んだ振りをして、「紫苑」の花を育てていたこと。
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