4人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはようございます」
「桜、きれいですね」
まっすぐな瞳で見上げる横顔。
「そうですね。本当に」
“私はちゃんと答えているのだろうか“
「私、通勤初めてで」
屈託なく笑顔を見せながら、止まらなくなったのか話を始める。
「こんな日が来るなんて思わなくて。ずっと病気してたんです。でも、治す手段が見つかって、元気になれて嬉しくて。医科学の会社に入って恩返ししたくて。今日が初出勤なのに、寝坊しそうになっちゃって。あわてて」
はっと、しゃべりすぎに気がついたのか、私の顔を見ながら、
「ごめんなさい、ひとりでしゃべっちゃって」
ぺこんと頭をさげた。
「いえ、体が良くなって良かったですね。これからを大切に過ごしてくださいね」
“声が震えていないだろうか、体の震えを悟られないだろうか“
「ありがとうございます」
彼女は嬉しそうにうなずいた。はつらつとした可愛い人だ。
しばらく他愛のない話をしながらバスを待った。
「不思議です。初対面の方と普通に話せることってめったにないのに」
彼女は首を傾げながら、それでも言葉が溢れて来るようだった。
意を決して私は聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!