エピローグ

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「おはようございます」 「桜、きれいですね」  まっすぐな瞳で見上げる横顔。 「そうですね。本当に」 “私はちゃんと答えているのだろうか“ 「私、通勤初めてで」  屈託なく笑顔を見せながら、止まらなくなったのか話を始める。 「こんな日が来るなんて思わなくて。ずっと病気してたんです。でも、治す手段が見つかって、元気になれて嬉しくて。医科学の会社に入って恩返ししたくて。今日が初出勤なのに、寝坊しそうになっちゃって。あわてて」  はっと、しゃべりすぎに気がついたのか、私の顔を見ながら、 「ごめんなさい、ひとりでしゃべっちゃって」  ぺこんと頭をさげた。 「いえ、体が良くなって良かったですね。これからを大切に過ごしてくださいね」 “声が震えていないだろうか、体の震えを悟られないだろうか“ 「ありがとうございます」  彼女は嬉しそうにうなずいた。はつらつとした可愛い人だ。  しばらく他愛のない話をしながらバスを待った。 「不思議です。初対面の方と普通に話せることってめったにないのに」  彼女は首を傾げながら、それでも言葉が溢れて来るようだった。    意を決して私は聞いた。     
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