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リビングに戻った俺はソファーに腰掛ける。島に着くことを目的としていたから、到着してから何をするかまでは考えていなかった。
これからどうしようか。俺はごろりと寝転がると天井を見上げた。
汚れひとつ見当たらない、真っ白な天井だった。
扉が開く音と共に目を覚ます。いつのまにか眠ってしまったようだ。
……何か聞こえる。規則的に鳴るコツコツという音。確実にこちらに近づいている。
俺はがばりと起き上がって扉の鍵を閉める。そこで思い出した。診療所の入り口の鍵を閉めていなかった。完全に俺のミスだ。
音はどんどん近づいて来る。俺は壁に立てかけてあった箒を構えた。
父さんから人は殆どいないと聞いていたが、泥棒がいないと決まったわけではない。それに俺は人と関わるのがあまり好きではないのだ。
しかし、それから音はぱたりと止んでしまった。
どこかに行ったのだろうか、それとも気のせいだろうか。
とにかく危機が去ったことを感じた俺は、身体中の力をふっと抜いて倒れた。
「失礼しますよ」
そして誰かが話しかけて来た。俺はうわっと声を出して飛び退く。
「やぁこんにちは。今日は『光』が濃いから 、新しい誰かに会えると思っていましたが、まさかヒトとは。長生きも悪く無いですなぁ」
振り向くと、そこには老人がいた。黒地に白い斑点模様の和服を着ていて、袖は地面に着くほど長い。顔には深い皺が刻まれているが、不思議と老いは感じなかった。だがそんなことはどうでもいい。
「あんた誰だ? どっから入ってきた? 」
尻もちをつきながら尋ねる。
「私、イワクラと申します。いつもはそこの扉から入るのですが、今日は閉まっていたようで。ですので窓から入ってきました」
「窓? 」
ふと見るとテラスの入り口の窓が開いていた。どうにも俺は、鍵を閉めることを忘れやすいらしい。
「まぁいいか……もしかして、ここに住んでた? 」
俺はイワクラさんに聞く。二十年も誰もいなかった建物だ。誰かが使っていたとしても不思議ではない。
「いやいや、私はただ、ここを掃除しているだけですよ。前にここに住んでいた方にお世話になりましてな、そのお礼、みたいなものですなぁ」
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