【4】珊瑚礁

2/16
92人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
「カイの父さんって、どんなヒト? 」  先を行くノアが尋ねる。 「どんなって……普通だよ」  何を急に。 「強いて言うなら獣医だったけどな」 「じゅうい? 」 「あー、怪我した動物を助ける人……って言えばわかるか? 」 「すごい! だからカイもケガ治せたんだ! 」 「まぁな。そう言えば……」  昔はこの島に住んでいたらしい。そう続けようとした時、目の前の風景ががらりと変わった。  今までの緑は綺麗になくなり、代わりに色鮮やかな木々が現れた。  地面は一面白い砂で覆われて、まるで砂漠のようだ。生えている木も背丈は低く、花のように横に広がっている。  絵の具で染めたような赤、青、緑、黄色。それらが混ざり合い、広大な森を作り上げていた。 「サンゴだ……」  ノアの声。そうか。これは木ではない。  サンゴ礁だ。  身の丈を越すほどのサンゴの群れ。白い道はその間を縫うように続いていた。 「陸にもあるんだね! サンゴ」  いや、普通はない。まぁこの島で「普通」が通用しないのは十分わかっているが。  それにしてもこのサンゴはすごい。木と間違えるような大きさ。腕のような枝が俺たちの上に伸び、今にも包み込まれそうだ。 「ねえねえ、これって花? 」  サンゴの一つを見つめる。確かに枝の先から小さな花のようなものが出ていて、風に揺られている。 「花ってサンゴにもあったんだ! 陸にしかないのかと思ってた」  ノアはその一つをつついてみた。 「あ、ひっこんだ! 」  花のようなものは一瞬で萎んで見えなくなった。  ノアはきゃっきゃと笑いながらつんつん突いていく。楽しそうで何よりだが、サンゴからしたらいい迷惑だろう。 「ポリプだな。サンゴはポリプが群れになってできてるんだよ」 「……? 」 「その小さい奴が一匹のサンゴってこと。そもそもサンゴは動物だしな。花じゃないんだ」 「むむむ」 「……花じゃないってことだけ覚えとけ」 「わかった! 」  ほんとかねぇ。  サンゴ礁は思っていたよりも広大だった。  道に沿ってしばらく歩き続けたが、一向に丘が見えてこない。潮溜まりでは遠くにぼんやり見えたものの、ここではサンゴが邪魔で見えにくいのだ。   「スイカイが出たら逃げにくいな……」  俺の呟き。 「大丈夫だよ! 音には何の反応もないし」 「音? あぁ、エコーロケーションってやつか」 「え、えこー……」 「すまん、忘れてくれ」  ヒトの姿でありながら、エコーロケーションまでできるとは。イワクラさんは「ヒトの姿を得る」と言っていたが、どこまでヒトで、どこまでイルカなのだろうか?  興味は尽きないが、今は取り敢えず丘を目指さないと。 「ボトルメール、ちゃんと持ってるか? 」 「ばっちり! 」  スイカイと戦ってヒビ一つ入らないあの瓶も、相当不思議だけどな。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!