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「カイの父さんって、どんなヒト? 」
先を行くノアが尋ねる。
「どんなって……普通だよ」
何を急に。
「強いて言うなら獣医だったけどな」
「じゅうい? 」
「あー、怪我した動物を助ける人……って言えばわかるか? 」
「すごい! だからカイもケガ治せたんだ! 」
「まぁな。そう言えば……」
昔はこの島に住んでいたらしい。そう続けようとした時、目の前の風景ががらりと変わった。
今までの緑は綺麗になくなり、代わりに色鮮やかな木々が現れた。
地面は一面白い砂で覆われて、まるで砂漠のようだ。生えている木も背丈は低く、花のように横に広がっている。
絵の具で染めたような赤、青、緑、黄色。それらが混ざり合い、広大な森を作り上げていた。
「サンゴだ……」
ノアの声。そうか。これは木ではない。
サンゴ礁だ。
身の丈を越すほどのサンゴの群れ。白い道はその間を縫うように続いていた。
「陸にもあるんだね! サンゴ」
いや、普通はない。まぁこの島で「普通」が通用しないのは十分わかっているが。
それにしてもこのサンゴはすごい。木と間違えるような大きさ。腕のような枝が俺たちの上に伸び、今にも包み込まれそうだ。
「ねえねえ、これって花? 」
サンゴの一つを見つめる。確かに枝の先から小さな花のようなものが出ていて、風に揺られている。
「花ってサンゴにもあったんだ! 陸にしかないのかと思ってた」
ノアはその一つをつついてみた。
「あ、ひっこんだ! 」
花のようなものは一瞬で萎んで見えなくなった。
ノアはきゃっきゃと笑いながらつんつん突いていく。楽しそうで何よりだが、サンゴからしたらいい迷惑だろう。
「ポリプだな。サンゴはポリプが群れになってできてるんだよ」
「……? 」
「その小さい奴が一匹のサンゴってこと。そもそもサンゴは動物だしな。花じゃないんだ」
「むむむ」
「……花じゃないってことだけ覚えとけ」
「わかった! 」
ほんとかねぇ。
サンゴ礁は思っていたよりも広大だった。
道に沿ってしばらく歩き続けたが、一向に丘が見えてこない。潮溜まりでは遠くにぼんやり見えたものの、ここではサンゴが邪魔で見えにくいのだ。
「スイカイが出たら逃げにくいな……」
俺の呟き。
「大丈夫だよ! 音には何の反応もないし」
「音? あぁ、エコーロケーションってやつか」
「え、えこー……」
「すまん、忘れてくれ」
ヒトの姿でありながら、エコーロケーションまでできるとは。イワクラさんは「ヒトの姿を得る」と言っていたが、どこまでヒトで、どこまでイルカなのだろうか?
興味は尽きないが、今は取り敢えず丘を目指さないと。
「ボトルメール、ちゃんと持ってるか? 」
「ばっちり! 」
スイカイと戦ってヒビ一つ入らないあの瓶も、相当不思議だけどな。
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