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つまらない毎日だった。
俺はアウストラ商会の商会長であるハールーンの息子として生を受ける。父は商会を立ち上げ、一代でスネークヘッドの街における半分の財を独占するまでアウストラ商会を大きくした。
スネークヘッドという街の中だけであるが、アウストラ商会は民会や貴族を差し置いて街の王として振舞うことが許されるほどだったのだ。
そんな父の息子として俺は何不自由ない暮らしを送る。
貴族や金持ちが通う学校へ行き、武芸に学問を学ぶもすぐに飽きた。
手ごたえが無さ過ぎて、つまらなかったからだ。
例えば、フェンシングのスキルを持つとある子息が「自分よりフルーレを使える者はこの学校にいない」と吹聴していた。
面白いとこの時は思ったものだ。
これほど自信に漲ったこの子息ならば、俺が追いつけぬほどの歯ごたえがあるかもしれぬと。
相手はスキル持ち。こちらはスキルを持っていない。
一週間、フルーレを学びその子息へ挑みかかったのだが……弱い。彼は弱すぎた。
この時俺は、勝った悦びなどなくむしろ残念な気持ちで一杯だったのだ。
入学して半年でどの教科でも俺に敵うものはいなくなっていたし、スキル持ちで俺こそがと言う者でもこれとは……。
満たされない。
そこで初めて俺は乾きを覚えた。
学校を卒業すると、俺にとっては更なる試練が訪れる。
貴族や金持ちの生徒が集まる学校という組織は、個々人の家柄に関してなら俺より対等か格上だった。
だから、俺を殊更持ち上げたり、おべっかを使う者はいない(俺の能力を知ってからそうする者もいたが、少なくとも最初はそうではなかった)。
しかし、スネークヘッドの街では「アウストラ商会のボスの息子ファールード」なのだ。
既に身分において絶対的に高い地位にある俺へ誰もが面と向かって挑みかかってくることがなかった。
ならばと、俺が夢中になれるような困難で越えがたい壁をと思い探求する。
結果、俺はますます乾き……飢えた。
どうすればいい? 何をすれば俺は満たされる?
僅かばかり考えただけで、俺の天才的な頭脳は答えを導き出す。
戯れろ。
隙を作れ。
内憂外患……。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
とんでもなく馬鹿な奴や自己顕示欲や自己保身の強すぎて使い物にならない者……そんな者を雇い入れ寵愛する。
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