第1章

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 大きくは、鑑定や治療といったスキルを使わなければ他に代替手段が無いものと、各種魔法や剣などスキル無しに比べて習得時間が遥かに短縮される天性の才能みたいなものに分けられるんだ。  俺はその中でも「外れスキル」の一種である「トレーススキル」を持っている。このスキル……俺の父以外に持っている人を見たことがないくらいレアなんだけど、効果がとても薄いスキルなんだよね。  トレーススキルは、一言で言うと「記憶と実行」を行うことができる。さっき俺が使ったみたいに、「しゃがんで持ち上げる」みたいな一つの短い動作を「記憶」し、スキルを使うことで「実行」できるんだ。  ものすごく地味な上に、特にスキルが無くてもできちゃうことだから……とても価値が低いってわけ。だから、自分のスキル熟練度を積極的にあげる気にはなれなかった。  その代わりといってはなんだけど、スキルが微妙なら体を鍛え補えばいいと思って、父とよく魔の山へ行きサバイバルをしながらレベル上げをしたものだ。レベルを上げることで身体能力が上昇するしさ。  何をするにも体が資本だから……ね。  といっても、自分のレベルとスキル熟練度が現在どれくらいなのか分からない。だって、ステータスを鑑定をしてもらうにはお金がかかるんだもの。  そんなことにお金を使うのは勿体なくてねえ。我ながら貧乏性だよ。    すっかり暗くなってしまった街中は、大通りこそ魔法の灯りがともっていて明るいんだけど、裏路地に入ろうものなら薄暗い。  俺は大通りを真っ直ぐ進み、家路に向かっている。    ん、んん。  右手の路地から何やら女の子の悲鳴が聞こえる……。  衛兵を呼ぼうかと思ったけど、時間を取られているうちに取り返しのつかないことになっていても困る。  俺は全速力で路地裏へと駆けるのだった。   「なー、なー。いいだろお」 「何、いやがるフリしてるんだよ。俺が誰だか分かってんのか?」  金髪ツンツンヘアの貴公子然としているが、軽薄そうな身なりのいい男と、その取り巻きらしきゴツイ丸刈りの男が嫌がる少女の肩を掴んでいた。  男達は俺より三つほど上だろうか、逆に少女は俺より少し下くらいに見える。  少女は緑色の髪が印象的で、顔は男達に隠れてここからだとよく見えない。    どうしよう? このまま立ち去って見て見ぬふりをするか、それとも助けるべきか……。
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