第1章

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 つまり……「三日後にデートしようね」ってことなのだ。    俺は二ヤつく顔を抑えられず家路につくのだった。    ◆◆◆   ――二日後  いよいよ明日はアーシャとデートの日。俺は朝から港で荷物運びをしながら明日はどこに行こうかずっと考えていた。  もうすぐ昼になろうかという頃、どこかで見た記憶のある金髪の男と丸刈りの男が赤い髪の女の子と一緒に港にやって来る。  って、あの女の子はアーシャじゃないか。どうしたんだ?   「よお、二日ぶりだな」 「あ……あの時の」  思い出した。路地裏であったナンパ男たちだ。   「よく覚えていたな。まあお前が忘れていようが、関係ないんだがな。どっちにしろ刑は執行する。ハハハハハ」  高笑いする金髪の男。   「おい。ええと確か……ウィレムだったな。このお方はアウストラ商会のご子息『ファールード』様だ」  丸刈りが高らかに(うた)いあげる。  アウストラ商会といえば、この街で圧倒的なシェアを誇る大商会だ。この金髪がその大商会のボスの息子ってのかよ。   「この女もな、俺の方がいいんだってよ」  金髪の男――ファールードはアーシャの肩へ腕を回し、もう一方の手の指先を彼女の顎へ伸ばす。 「そ、そうなの……ごめんね、ウィレム」  アーシャは無表情にそう言い放つ。ま、まさか? 嘘だろ、アーシャ。  茫然とする俺をよそに、ファールードはアーシャを抱き寄せる。そのまま顎に当てた指先をクイっとあげたかと思うと彼女へ口づけをした……。  俺は非現実的な光景に「これは夢だ。夢だ」と頭の中で繰り返す。   「み、みんなのいる前で胸までは……恥ずかしいよ……ファールード」 「そうかそうか。後でゆっくりと可愛がってやるからな」 「もう……」  彼らが何か囁き合っているが、俺の耳には全く入ってこない。 「おっと、ウィレム。こいつはもういらねえ」  ファールードはポケットから何かを取り出す。  あ、あれは俺がアーシャにプレゼントしたピアスじゃないか。 「な、何を……」 「これは、こうする」  ニタアと嫌らしい笑みを浮かべ、ファールードはピアスを投げ捨てると上から足で踏みつけた。  な、何をやっている。こいつは何をやっているんだ!   「ファールード!」 「ファールード様だろ、おい!」  丸刈りが俺の胸倉を掴み、睨みを利かせる。  
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