第1章

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「まあ、無礼は許してやれグラハム。こいつはもう街にいられやしねえんだからな。ハハハハハ」 「そうでした。ヒヒヒヒ」 「じゃあな、まあもう会う事もないだろうが」  アーシャを連れてファールドとグラハムは去って行った。  残された俺は手を床につき、ガクリとうなだれる。   「ウィレム。すまない。本当にすまない」 「え? ルドンさん?」  ルドンがしゃがんで俺の肩をポンと叩く。  いつここへ来たのだろう? まあ、それはいい。でもなんでまた。   「不本意で仕方ないが、お前を首にするしかなくなってしまった。アウストラ商会に睨まれると、商売ができなくなってしまう。すまん、すまん……ウィレム」 「ルドンさんのところへ圧力が?」  ルドンは無言で頷きを返す。彼の顔は苦渋に満ちていた。  彼の商会は小さいとはいえ、十名以上の商会員を抱えている。人のいいルドンのことだ。彼らの生活を顧みると、俺を切らざるを得ないのだろう。  彼の気持ちは分かる。だから、俺は彼へ何ら恨み言を言うつもりはなかった。   「ルドンさん、俺……今までありがとうございました」 「すまない……ウィレム」  ルドンは再び謝罪すると、フラフラとした足取りで港の奥へと消えて行く。  俺は彼の後ろ姿が見えなくなるまで見つめ、「今までありがとうございました」と呟き深く頭を下げたのだった。    こうして何もかも失った俺は、新たな職を探そうにもアウストラ商会の圧力があるため、仕事を得ることができなくなってしまう。  僅かな蓄えはあるが、すぐに底をつく。このまま死んでしまうかと考えはしたが、死んでしまっては俺が負けを認めたことになると思いなおす。    残された道は……冒険者になる手もあるが……。  冒険者ギルドは街の影響が及ばぬ独立組織だ。つまり、アウストラ商会の手は冒険者ギルドに及ばない。しかし、街の宿やレストランはそうではないし、道具を入手するにも奴らの目を気にすることになる。  まだ、奴らと関わるべきではない……いつかやり返してやるつもりではいるが……今はまだ……。  ならば、街から出よう。    俺はありったけの金を使って身支度を整え、魔の森に向かうことを決意する。  いずれ街に戻ることを誓って。   2.魔の森へ  スネークヘッドの街から北東へ歩くこと二日。魔の森の外周部が見えてくる。
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