バカな女とゲイの俺

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たまに思うんだ。 俺が男が好きな男だから思うことなんだけど。 目の前に、女の子が好きないわゆるフツウの男が現れて、そいつが俺のめちゃタイプな甘い顔をしていた時。 こいつがほんの10分がまんして目をつぶって、俺のキスを受け入れて、服を脱がしても何も言わなくて、裸で抱き合うことができたら、 それで俺は1か月は幸せでいられるのにな、って。 誰かの10分の我慢で俺の1か月の幸福が得られるなら、人類の幸福総和を考えたら、俺のこの夢想はあながち悪くもないことだよな、って。 そんな俺の前に一人の女が現れた。居酒屋での飲み会だった。 女友達の友達としてやってきたその女は、酒にのまれて俺に言った。 ねぇ。目つぶって。 それから10秒。ほんの10秒で俺は居酒屋から地獄に瞬間移動していたよ。 ビールを口移しされて、ついでに舌をいれられて、片手は俺の下半身を服の上からつかんでいた。 ショックとか嫌だというそういう感情ではなくて、すべてがどうでもよくなる感じを俺は味わった。 あ。心が凍ってる。俺の心がその先の一番やわらかいところを守ろうとして、何も感じず何も考えなくなってる。 ばかみたいな飲み会を盛り下げないために俺は目を開けて笑って「バカかよっ」って叫んだ。 アハハ。 女が笑って次のターゲットを探し始めた時、安堵感とともに凍った心が解けて悟ったんだ。 この女は俺だ。って。 女にしか興味がない男との裸ハグを夢想して「俺のために10分がまんしてくれることが人類のため」とか言っちゃう俺のエゴ。 飲み会のノリで俺の心を凍らせたこの女のバカさ。 何も違わない。 きっとこの女は、俺に自分のエゴを悟らせるために神様が遣わせた天使なんだな。 ありがとう。 俺は女の口移しビールで汚れた口をハイボールでそっと清めて、手元のスマホでゲイアプリを開いた。 俺に興味がないフツウの男にも、俺にキスをするバカな女にも関わらず 俺は俺を好きになってくれるゲイのイケメンと幸せになろう。  飲んでます。このあと泊めてくれる人いますかー? ゲイの出会いアプリでそうつぶやいた。いま、俺は未来を見て生きている。
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