そして魔法がやってくる

2/17
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「え、ここで待ってるの?」  木の陰のベンチに腰を下ろしたエデは、こくこくと頷いた。長蛇の列が出来ているアイス屋を指差す。そうして、白いタオルを取り出すと、オーバーに首や額を拭き始めた。 「いや、暑いのは私も一緒なんだけど……」  エデが大きく口を開け、がおー、とポーズをする。八重歯が見える。 「わかったわかった、行って来るって!!」  今度は顔面を燃やされかねない私は、慌てて財布を掴むと、アイス屋にすっ飛んでいった。  移動式のアイス屋である。列に並んでいると、荷馬車を引いている小型ドラゴンと目が合った。ドラゴンは怪訝な目で私を見つめると、ぶるぐっしゅん、と鼻を鳴らしてくしゃみをした。  私は後ろを振り返った。遠くの木の下で、エデが涼んでいる。文字通り涼んでいる。小型扇風機を召喚し、滅茶苦茶涼んでいる。なんだあれ。 「へい、いらっしゃい」  やっと私の番が回ってくると、有角人種の店主が出迎えた。 「おや、学園の学生さんかい?今ならアイス2段が3段になるセールをやってるよ」 「あ、じゃあお願いします」  私はごそごそと財布の中の銀貨を探った。 「ねえちょっと、あの子って……」  店主が、私の耳元に口を寄せてきた。角が近い。 「あの子が、噂の新入生かい?」 「エデのこと? 噂になってるんですか?」  私は銀貨を七枚取り出すと、店主の毛むくじゃらの手のひらの上に置いた。 「ああ、有名だよー。えらいのが入学してきたって」 「あー……」  私は振り返って、木の下のエデを見た。この距離からでもわかる。キラキラと輝く黄金の髪。白い肌。一言で言えば、彼女は天使だった。そして、天使は扇風機の風を浴び、だらしなく口を開けて、気持ちよさそうだ。 「彼女、口が利けないんだって?」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!