そして魔法がやってくる

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そして魔法がやってくる

 彼女の名はエデ。聖クーニグンテ魔法学園の新入生。長く伸ばした金色の巻き毛は、昼の光を反射してキラキラと輝いている。  オークの木の下で、きょろきょろとあたりを伺っているようだ。途中、炎魔術科の上級生から声をかけられたようだったが、彼女は困ったようにはにかんで、それから手をひらひらとふった。上級生たちは微笑み返して、そのまま歩いていった。  中庭に植えられている花々は美しく、庭師のドワーフが手入れしているのをよく見かける。私は校舎から走ってきて息が切れていた。中庭を見渡して、やっとエデの金髪を見つける。私はまた駆け出した。エデも、どうやらこちらに気づいたようだった。 「ごめん、待った?」  私がエデの元に駆けつけると、平和だった中庭の様子は一変した。  活火山。溶岩は噴出し、空は暑い黒い雲に覆われる。黒ずんだ地面はひび割れ、エデの頭からは白い蒸気がぽんぽんと噴出す。口の端がにゅっと伸び、鋭い牙が生え、エデの口からは炎が噴出した。 「ごめんって」  私は持っていた魔術書で、ミニ火山を塞いだ。よく出来たミニチュアである。 「謝るからさ。授業が長引いちゃったんだって」  それでも、エデの怒りは収まらない。まだ彼女の頭から、白い蒸気がぽんぽんと出ている。彼女の口から出た炎が、私の制服を少しだけ焦がした。 「だからごめんって。お詫びにアイス奢るから」  そのとたん、彼女がまとっていた炎魔法の気配は立ち消えた。召還されていたミニチュア火山は消えうせ、熱気が納まる。彼女は両手を握り締め、彼女の目と髪がキラキラと輝きだす。 「アイザックのアイス屋さんでいい?」  私が尋ねると、エデはぶんぶんと頭を振り、大きな赤い矢印を取り出して、左に向けた。 「ええ、クイーンアイス店!?あそこ高いし、並ばないと買えないじゃん……」  私が言うと、エデは赤い矢印をごそごそと片付け、もう一度口から炎を吐き出した。 「……わかったって、並ぶから」  前髪を焦がされた私は、降参した。エデはやったー!と万歳をすると、私の右手をひっつかんで、クイーンアイス店に向かうのであった。
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