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オープニング
♪~
「ん、いい感じ」
目の前にある釜の中、琥珀色の液体を眺めながら、愛用の杖でかき混ぜた。
3ヶ月前、お店を開いたときに一目惚れして衝動買いした杖の先には背伸びする黒猫が鎮座し、瞳と額には深い碧色の宝石がはめこまれている。
一言で言って可愛い。手に持ったときの違和感がほとんどなく、木製にも関わらず、すごく軽い。うっかりすると持っているのを忘れるほどに──。
お日さまの光が、ほどよく射しこむカントリー調の机には調合器具や積まれた本などが置かれている。依頼の期日が迫っているため、少しだけ乱雑さがめだつ。
(机、やっぱり狭いよね。机を買う予算を杖につぎこんだからだけど)
「乱雑なの少しだけなんだから、ね」
誰に言い訳するわけでもないのに、何いってるんだろう。顔の赤さをごまかすように、使いこまれた大きな釜をゆっくりと底の方まで、焦げないようにかきまぜる。
「焦らないで落ち着いて上澄みが一瞬、蒼白く光ったら」
この一瞬を見逃すと失敗確定だから集中しないと。
依頼の期日は明日。失敗すると後がきつい。
(きた!この青)
あとは、紅とかげのしっぽを入れてガガガーとかき混ぜて……
紅とかげのしっぽオッケー。
紅とかげは、恋人達の聖地っていわれるラブロードリッドの丘陵の中間の『林の小道』の木によくよじ登っている。ここに植えられている木々の幹が、紅とかげの色とよく似ており、保護色になっているためだ。
いま手に持っている紅とかげのしっぽは、丸々としていて新鮮。品質も申し分ない。
これなら、依頼主のアンディさんも満足してくれるはず──
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