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三徳富士の入り口付近には消防車が二台止まっていて、ホースで放水しているのが見えた。その周りを、円を描くようにして、たくさんの野次馬が突っ立っている。スマホで写真を撮っている人もいる。
山を見上げる。入り口すぐの山道あたりに火が蠢いている。
――サトくんは? サトくんは登ってないよな?
思わずスマホをジーンズから取り出す。が、慧と連絡先を交換していないことを思い出した。
――聞いておけばよかった。
「サトくん、サトくん」
勝手に声が出て、操られているみたいに、体が前に進む。三徳富士の入り口に向かって。
「おい! 近づくな!」
野次馬の男に、後ろから襟を引っ張られ、清宮はたたらを踏んだ。
「止めんなよ!」
清宮は制止の手を振り切って、消防車の近くまで駆けた。そのときだった。
「キヨさん」
息を弾ませている慧が、目の前に現れた。
彼の顔を見た瞬間、体から一気に力が抜けた。すとん、と地面に尻もちをついた。安堵で涙が浮かんだ。
「ああサトくん、無事だった」
涙を拭って、しゃがみこんでくる慧の肩に手を置いた。
「サトくんが山に登ってたらどうしようって思ったよ」
「――俺は今日、ここに来てなかったんです。あんたに合わせる顔がないと思って。でも、家にいたとき、ここが火事になってるって聞いて」
慧の顔はびっしょり濡れていた。体も汗だくになっている。
「キヨさんが無事でよかったよ」
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