エピローグ

4/4
前へ
/108ページ
次へ
 いたずらっぽく笑い、清宮が背伸びをして、慧の頬に軽いキスをしてきた。  ――なんだよそれ。猛烈に可愛いんだけど。  自分の顔がふやけていくのが分かる。 「サトくん、勉強頑張ってね」  ニコニコしながら手を振る清宮を、思いっきり抱きしめる。 ――ああもう、あんたにメロメロなんだ。全部あんたの言う通りにするよ。  慧は断腸の思いで清宮から体を離し、玄関に走った。ドアを開ける。  外は晴れている。梅雨は明けていないのに、湿っぽさもない。煤けた臭いもさきほどより薄くなっている。  住宅街を走る。車一台通れるぐらいの狭い道、バナナの皮が落ちているゴミ置き場。近くを年配の男が犬を引いて歩いている。 これといって感動的な風景が広がっているわけでもないのに、胸がいっぱいになった。  今、ここから、素晴らしい世界が始まる。そんな期待と確信に、慧の心は躍動していた。了
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加