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キッチンに戻り、ゴミ拾いに行く準備に入る。まず四十五リットルのごみ袋を二枚、分厚い五十枚入りの束から引っこ抜く。
「あ――四枚か」
独り言ちて、また二枚引っこ抜く。
ゴミ拾い仲間ができて今日で二週間だ。その男の名前は佐藤慧(さとう さとい)、二十歳、大学生。清宮より十歳年下だ。物好きな若造。ちょっと失礼な物言いをするが、あの臭くて劣悪な場所でゴミ拾いができる根性は気に入った。一日で嫌になって来なくなると思っていたが、二週間続いている。
――最初はチャラい大学生って感じだったけど。
ごみ袋とポリ袋、軍手一組、タオルとハンカチをボディバッグに詰め込んで背負う。
玄関から外に出ると、ちょうど隣人がゴミを持って廊下を歩いているところだった。
清宮が「おはようございます」と声をかけると、「ああ、どうも」と五十代のふくよかな女性が返事をしてくれる。
「今日も臭いわね。ほんと嫌になっちゃう」
彼女の愚痴はいつものことだ。清宮は相槌を打って、彼女の脇を通って外に出た。
愚痴ったところで何も変わらない。三徳富士から流れてくる異臭は止まらない。
――俺のやっていることも無意味だけどな。
清宮は自虐的になって嗤った。
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