311人が本棚に入れています
本棚に追加
慧がシュンとして言った。彼の大きな手のひらには、水泳用のゴーグルが載っている。フレームとストラップはピンク、レンズは透明だ。
「まあ、百均だし良いか」
気を取り直したように、慧が明るく言う。独り言にしては大きい声。なんだか受け取らないと可哀そうな気がしてきた。一応、好意で準備してくれたわけなのだし。
「あ――じゃあ、一応貰っておくよ。使うときが来るかもしれないし」
清宮は咳ばらいをして、慧から白いマスクとピンクのゴーグルを受け取った。ゴーグルだけボディバッグに入れる。
「ありがとう。マスクは使えるね」
現場は強烈な臭いがするから、この薄っぺらいマスクが有効なのか分からないが。
清宮は顔にマスクを装着し、手には軍手をはめた。慧はそれらに加え、目にもゴーグルをつけている。重装備な感じだ。
「さ、行こうか」
ふたりは山を登り始めた。
最初のコメントを投稿しよう!