311人が本棚に入れています
本棚に追加
三徳富士――この山は清宮たちが住む愛川市の海抜最高地点とも言われている。標高三十七メートル。オフィスビルだと十階建てに相応する。なかなかの高さだ。今から四十年ほど前に、産廃業者による残土の違法投棄が行われ、それは三十年弱続いたらしい。違法投棄した会社の社長はすでに警察に捕まり、懲役刑を受けている。だが、残土の撤廃は行われていない。行政で山を撤去してほしいところだが、それにかかる費用は四十億を超えるとされている。撤廃するとなれば血税から費用を捻出するわけだ。だから、そう簡単には解決に至らない案件なのだ。
「今日は天気が良くてよかったぁ」
機嫌良さそうに言い、慧が両腕をぶんぶん回しながら、山道を登っていく。清宮は彼の後ろを歩いた。トラック一台がギリギリ通れるぐらいの道幅だ。傾斜はゆるやかだ。
生い茂った雑草と、風に吹かれよろめく枯れ木が、歩く者の視界を狭める。本当に自然にできた山のようだ。残土でできた人工山なんて、初見では誰もわからないだろう。
だが、五分ほど歩いていくと、のどかな景色は突如消えてしまう。目の前に緑に囲まれた水路が現れる。そこにはブラウン管テレビ他、いらなくなった家電製品が沈んでいる。水の色は土色で、汚染された沼、という感じだ。
沼地に用はない。清宮と慧は先を急ぐ。数分歩くと、産廃業者が行き来しているであろう場所に行きつく。トラックのタイヤの跡がついた砂利道を進むと、果たして、そこには大量のゴミがうず高く積み上げられている。ゴミの壁だ。スーパーのレジ袋に入った家庭ゴミ、むき出しのエロ本、雑誌、空っぽのペットボトル、空き缶、空き瓶、電池――つまり、可燃ゴミ、不燃ゴミ、資源ごみ――ありとあらゆるジャンルのゴミがごった返しているのだ。鼻が曲がりそうなほどの異臭を放っている。
最初のコメントを投稿しよう!